2015年7月23日
標高1500m、御嶽山の斜面に広がる260haのオバコ牧場は、標高1300mの日和田集落から30分の距離にある。日和田集落は高山市から1時間の距離にある隔絶山村である。中世を始祖とする歴史文化的価値のあるオバコ牧場において、ワラビ粉生産の安定化のために牧場整備によって最上質のワラビ粉採取地を確保をし、同時に、野草と牧草の混蒔によって良質の飛騨牛生産を両立させる。
飛騨の伝統的ワラビ粉生産は、農耕の起源の実相を示すものとして重要な民俗であった。これを復活させ、歴史文化価値を高め、ワラビ粉生産会社を設立し、村人と力を合わせ、ワラビ根採取、加工を行ない、ワラビ粉生産をする。
30分かけて軽トラックで山に向う。4時間かけて、短期雇用した3人の村人と採取を行う。バックホーを用い唐鍬を使って芝を剥ぐように地下10センチに伸びる地下茎を80kg程掘り取る。選別し、地下茎の繁殖部分を後年の繁殖のために埋め戻し、澱粉を蓄えた地下茎をむらまで持ち帰り、水洗し、10kg程に分けて搗く。この搗く工程を3回繰り返す。4時間の作業である。この採取、加工の作業を1週間行う。1日2kgのワラビ粉の産出量である。生産されたワラビ粉を和菓子屋に卸す。京都へ営業に行き、2軒の得意先を確保した。
ワラビ根の採取地となる牧場の整備を並行して行う。現在260haの牧場は樹林地になっており若木を住民参画により切り捨てによる伐採を行う。燃料費と若干の賃金を払う。1ha当たりの作業員数を15人としてチェーンソーオイル1ℓ/日/人=300円、ガソリン2ℓ/日/人=300円となり、人件費を除いた1haの必要経費は、600円(オイル+ガソリン)×15人/ha+1000円替刃=10000円となる。チェーンソーは自前のものを使う。伐採終了後、ゾーン分けをし、野草のゾーン、ワラビのゾーン、ホワイトクローバーのゾーンの整備をし播種を行う。
牧場の整備は中世以来の木曽駒と牧場との草地をめぐるエコシステムを応用した文化景観の再生であり、ワラビ粉、飛騨牛、ワラビ摘み、蜂蜜、薬草、公園化、などの利用を通して草原や森林の山地利用を可能にさせる。
野草と牧草を合わせた植生の牧場の整備の研究は、良質のワラビ粉と中世からの飼養方法に基づく良質の肉牛をもたらし、伝統的な価値の継続と見直しの意味と、その活用を意味し、新たな価値となる。わらび粉生産による和菓子販売と飛騨牛の肉販売の両者を通してその価値は社会に共有され、生産フィールドとしての価値を見直され、山村の人口減に対し生産力を確保することにつながる。
牧野の管理は、牧柵や肥料撒、見回りなどの共同管理をすることによって共同体を強化し、近隣の若者に関心を示すものがおりこれらの若者を加え若者の定着をもたらしたい。 共有牧野における共同化の伝統は、ワラビ粉加工の水車小屋の建設や馬の糞の自由な利用にあった。これらも現代に引き継ぐ。経営は「飛騨わらび」として会社を設立し、村内の3軒の企業や村民に株主になってもらい村人から出資金を募り配当金を出す計画である。ワラビ粉販売等の利潤は、積み立てをし、牧場開発や水車小屋、堆肥、その他の共用に供する。
また、中世からの共有地であるため、各種の取り組みは、ピンチである山村において、社会保障としての役割が、共有地の隠れていた歴史的下支えとして現代に現れることによって、共同体醸成の足がかりとなる。重要な民俗の復活や雇用と収入の増加、共同体の強化、若者の定着など、歴史的重要文化と歴史的文化景観の価値に注目した、文化の再生を地域活性化の核にする試みである。
これらの研究のために、 文化施設としての山村振興研究所の計画は、これらの経験を全国の山村に発信し、ネットワーク作り、6次産業化や 流通・金融・デザインの情報や伝統的な山村文化から得るものも含めて研究所に集積し、文化価値を作り出す。山村生活全般わたる環境・歴史・民俗などとともにこれらを生かした若者が取り組める施策の研究・広報を通して研究所の社会的活動により社会に共有され、幸福な社会のためにこれらの新たな文化という価値軸を付け加えるという創出活動の拠点になる。
歴史ある共有牧野において、ワラビ粉、飛騨牛、ワラビ摘み、蜂蜜、薬草、公園化、などの利用を通して草原や森林の山地利用を生かして、生態系の要素間の繋がりをより緊密化、高度化させ、クライマックスを求めていく試みは、産物の多品質化よる中世以来の牧野の新たな価値が創生された山村産業の再構築に繋がり、 また、共有地としての共同体醸成は、牧野の共同管理 や会社経営の共同化、福祉につながる。両者は疲労する山村社会に、物心両面にわたり歴史的文化的価値の復活として経済、社会の両面に渡って社会保障の役割という新しい価値を創出する。