2015年7月23日
山村が疲弊している。若者に戻ってきて欲しい。国内の均衡ある発展が言われて久しいが、地方の人口減は地方消滅ともいわれ、その中でも山村は限界集落となり人口減の影響を最も大きく受けいる。
この研究はわらび粉生産とその採取地となる中世以来の共有牧野の整備という両者の研究を通して、ワラビ粉生産を巡る牧場の再生による産業の再構築と、共有地であるがゆえの住民参画による共同体醸成の両者を目的とし、物心両面にわたる山村に自立した社会保障の役割を探る。山村の規模では新たな産業を興すことは至難の技である。それには、伝統文化の再評価に基づいた、新たな産業が地域活性化には望ましい。この研究がその一助となる。 このような小さな取り組みの積み重ねが、地方からの人口減克服や生産性向上ににつながり、強いては内需拡大という国内の内在力を生かした、国の借金を減らすと同時に国土の均衡ある発展をはかるというシステムを作り出すためのポイントになる。
大学、 大学院 時代、宮本常一先生、川喜田二郎先生の指導、薫陶を得、安家プロジェクト岩手県岩泉町安家、北上プロジェクト岩手県遠野市附馬牛町の調査を行なった。いずれも山村であり、調査結果は筑波大学修士課程環境科学研究科修士論文にまとめられている。住民の共同活動の諸相に注目し、伝統的山村が近代化の波を伝統的人間関係のつながりを生かして乗り切る実相を記した。また、90日間をかけ原付に乗り3500kmを走破して西日本の九州山地、四国山地、紀伊山地、中央高地の山村においてワラビ粉生産と山村生活調査をした。
飛騨地方のワラビ粉調査は、遠野市附馬牛町の調査で飢饉の時に救こう食として利用されたワラビ粉の生産力に注目して、実際ワラビ根採取を行っているフィールドを探し出した。5年に渡り飛騨地方のワラビ根堀の調査を行ない、1990年度 第4回 日本民具学会研究奨励賞受賞「ワラビの地下茎採取活動」(『民具マンスリー』第22巻7・8・9号、1989所収)にまとめた。その後、生産者の跡継ぎがおらず、生産が途絶えてしまい、今、村人と共にワラビ粉生産の復活に乗り出している。現在、現地のNPO法人に加わり、ワラビ粉生産を立ち上げ昨年10kgのワラビ粉を生産した。活性化の核にする試みである。『民具マンスリー』「実践民俗学 ー民俗文化復活の現代的意味ー」に詳しい。
『 ワラビの地下茎採取活動』の論文から以下の文化の付加価値として新たな価値を解明した。ワラビ粉生産という農耕の起源の証左となる貴重な民俗は、伝統的価値の再評価に基づいて収益を生み、経済価値をもたらす。ワラビ粉生産は和菓子文化継続としての美術工芸の価値 をもうみだす。
廃れてしまった 伝統文化であったワラビ粉生産 であったが、 新産業であるワラビ粉生産の会社設立は、村民の雇用と新しい文化の再生をもたらし、出資金を集めて配当金を出す事を計画することによって、村落共同体を強固にし、若者の関心を引きつけ参入を促している。ワラビ粉販売等の利潤を積み立てし、牧場開発や水車小屋、堆肥、その他の共用に供する。
山村活性化の事例として岡山県西粟倉村の森林資源を利用したクラフトなどの木材加工、徳島県馬路村の柚子加工がある。いずれの地方も地元資源を加工して地域振興を図っている。しかし、新たな価値の創出としては弱い。
牧場の整備は、中世以来の木曽駒と牧場との草地をめぐるエコシステムを応用した文化景観の再生であり、飛騨牛とわらび粉などの生産を可能にするものであると同時にワラビ粉、飛騨牛、ワラビ摘み、蜂蜜、薬草、公園化、などの利用を通して草原や森林の山地利用を可能にさせる。野草と牧草、ワラビを混蒔した植生の牧場の整備の研究は、良質のわらび粉と中世からの飼養方法に基づく良質の肉牛をもたらし、野草主体の伝統的な牧場の継続と牧草を混蒔するという見直しの意味による新しいタイプの牧場の活用であり、牧場に新たな価値を生む。わらび粉生産による和菓子販売と飛騨牛の肉販売の両者を通してその価値は社会に共有される。
文化施設としての山村振興研究所を通しての山村生活全般にわたる環境・歴史・民俗などとともにこれらを生かした若者が取り組める施策の研究・広報は、研究所の社会的活動により社会に共有され、新たな文化という価値軸を付け加える創出活動の拠点になる。
すなわち、ワラビ粉、飛騨牛、ワラビ摘み、蜂蜜、薬草などの 生産による文化景観復元という中世からの牧野の再創出は、生産や研究所などの産業研究の利用を通して草原や森林の見捨てられている山地利用を生かした、山村の中世からの眠れる牧野という生産や文化的価値を輝かせ、また、共有地ゆえの様々な施策の共同化により村落共同体を醸成し、経済社会に文化の価値を付け加え、文化の価値に注目した文化の再生を地域活性化の核にするという新たな価値を同時に生み出し、山村社会に物心両面にわたる社会保障の役割を持つに至る。文化国家建設考察の一助となろう。